イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

要点をまとめたものです。
まとまってないとか言わない。
評価も高いので知っている人は多いかもしれません。
忙しい人は引用部分だけ読むでもいいと思います。
この本はいろいろな例示があって話を飲み込んでいくものなので、きちんと知りたい場合は実際に読むことを推奨します。

キーワード
衛生要因、動機づけ要因、意図的戦略、創発的戦略、資源配分、「良い金、悪い金」の理論、「片づける用事」の理論、「資源」「プロセス」「優先事項」の三つの分類、文化、「自画像、献身、尺度」の三つの目的


第1講 羽があるからと言って…

 優れた理論は、「気が変わる」ことがない。
 「 もし〜 なら」の条件文の形で助言を与えてくれることが、 優れた理論のしるしだ。
 人生の難問に答えを出すには、「何が、何を引き起こすのか」を深く理解することが欠かせない。

ex) 人間による飛行の試みの歴史

 飛行実験の初期では、飛行能力と、羽や翼の有無の間に強い相関関係があると考えられていた。
 しかし、人間が腕に翼をくくりつけて飛ぼうとしたら、果たして失敗した。
 飛行能力と翼には高い相関性はあったが、因果的作用はなかったということである。
 人間の飛行能力の突破口を開いたものは、流体力学の研究によって行われた。 すなわち、揚力の概念である。
 つまり飛行能力は、翼と羽の相関性から、揚力の因果性によるものであるという理論が導かれたのだ。

第1部 幸せなキャリアを歩む

第2講 わたしたちを動かすもの

 誘因(インセンティブ)と動機づけ(モチベーション)という、二つの概念の関係性について、わたしたちがかけ離れた考え方をもっていること
 プリンシパル・エージェント理論、つまり誘因理論の問題点は、理論では説明できない、強力なアノマリーが存在することだ。
 真の動機づけとは、人に本心から何かをしたいと思わせることだ。この種の動機づけは、好不況に関係なく持続する。

誘因理論の問題点

 なぜ経営者は株主の利益を第一とする行動を必ずしもとらないのか?
 この問題の根底の原因は、報酬の与えられ方によって仕事のやり方が変わるところにある。
 そのため、経営者と株主の利害を一致させる(金銭的報酬を与える)ことによって満足度を高める。

 しかし、この理論は信頼に足りない(アノマリーが存在する)。
 子供に期待通りの行動をさせるには、例えば通知表で「A」を取るたびに金銭的報酬を与えればよいのだろうか?
 非営利組織や慈善団体の職員たちが金銭的報酬もなしにやる気にあふれているのはなぜだろうか?

動機付け理論(モチベーション理論)

誘因理論を逆さにしたもの。

 ハースバーグによれば、仕事の満足感が連続的に変化していくいく ― つまり一方の極の非常に満足度の高い状態から、その対極のまったく満足していない状態までが、連続的につながっている ― という一般的な前提は、人間の心の働きを正確に表していない。
 満足と不満足は、実は一つの連続体の対極に位置するのではなく、別々の独立した尺度なのだ。

衛生要因と動機づけ要因
  • 衛生要因

     あることで満足感を得ることはないが、少しでも欠ければ不満につながる要因。
     (衛生状態が悪ければ健康を害するが、衛生状態が良くても健康が増進させるわけではないことからつけられた呼び名)
     ステータス、報酬、職の安定、作業条件、企業方針、管理方法などがあげられる。
     報酬をどんなに工夫しても、せいぜい社員が不満を持たなくなる程度でしかない。

  • 動機づけ要因

     やりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などが含まれる。
     動機づけは外的要因はほとんど関係なく、自身の内面や仕事の内容と大いに関係がある。

 仕事において金銭がほかのどの要素よりも優先されるとき、つまり衛生要因が満たされているにも関わらずさらに多くの金銭を得ることだけが目的になっているとき、後悔することになるであろう。
 給料に見合った贅沢な生活を送っていた人間にとって、元の暮らしに戻るのは並大抵のことではないのだから。

 本当の幸せを見つける秘訣は、自分にとって有意義だと思える機会をつねに求め続けることにある。新しいことを学び、成功を重ね、ますます多くの責任を引き受けることのできる機会だ。古いことわざに、こんなものがある。「自分の愛することを仕事に選びなさい。そうすればあなたは一生のうち、一日も働く必要がなくなる」。

第3講 計算と幸運のバランス

 予期された機会を中心とする計画を実行するとき、意図的戦略を推進しているという。
 修正された戦略は、企業が予期されない機会を追求し、予期されない問題を解決するうちに下す、日々のさまざまな決定が凝縮したものであることが多い。このようにして形成される戦略は、創発的戦略と呼ばれる。

 初めは意図的戦略を中心に進められるも、不振が続いたり、意図とは違ったりすることが起こる。
 その際に創発的に発生した新しい方向に進むことによって、思わぬ成功につながることもある。
 意図的戦略と創発的戦略に優劣はない。
 2つの戦略をどう選ぶかは、以下の例が考えられる。

  • 意図的戦略

     求める衛生要因と動機づけ要因の両方を与えてくれる仕事がすでに見つかっている場合。
     はっきりした目標があり、それを遂行する価値を見出している。
     どうやって目標を達成するかに思考を集中しよう。

  • 創発的戦略

     そのような条件を満たすキャリアがまだ見つかっていない場合。
     一つひとつの経験から学びつつ、戦略を修正していく。
     これを素早く繰り返し、理想の仕事を探していく。

 意図的戦略や新たな創発的戦略が有効かどうかを考える際に、役に立つツールがある。戦略が成功するためには、どんな仮定の正しさを証明する必要があるかを考えるのだ。
 「これが成り立つためには、何が言えればいいのか?」を考えると分かりやすい。

ex) ディズニーがパリのテーマパーク進出に大失敗した理由

 ディズニーは南カリフォルニアとフロリダ、東京のテーマパーク開設に立て続けに成功した。
 しかし、パリのテーマパークは開業後二年で10億ドル近くの赤字という大失敗をしてしまったのだ。
 当初の事業計画は、総入場者数と入場一人あたりの滞在日数に関する仮定をもとに算出していた。
 ほか3つのテーパマークでは年間入場者数1100万人 x 滞在日数3日の売り上げができているので、単純にパリでも同じような事業計画を立てた。
 しかし、ふたを開けてみると、入場者数は1100万人に達したが、滞在日数はわずか1日だったのだ。
 ほかのテーマパークに比べてテーマパークの数が圧倒的に少なかったのである。
 おそらく、パリがほかのテーマパークと同規模だという仮定を無意識に立てたのだろう。
 そしてこの仮定が数字に組み込まれていたため、このような大失敗をしてしまったのだ。
 「この見通しが成り立つために、立証されなくてはいけないことはなにか、どうやって検証するか」を考えるのを怠った結果である。

第4講 口で言っているだけでは戦略にならない

 企業であれ人生であれ、実際の戦略は、限られた資源を何に費やすかという、日々の無数の決定から生まれる。一日一日を過ごしながら、正しい方向に確実に向かうには、どうすればいいのだろう?それには、自分の資源がどこに流れているかに注意を払うことだ。資源配分の方法が、自分の決めた戦略を支えていなければ、その戦略をまったく実行していないのと同じだ。
 わたしたちが自分の戦略に対して行う投資 ― それが積もりに積もって人生になる ― は、こう考えるとわかりやすい。わたしたちはプライベートな時間や労力、能力、財力といった資源をもっていて、これを使ってそれぞれの人生でいくつもの「事業」を育てていく。たとえば伴侶や恋人と実り多い関係を築く、立派な子供を育てる、キャリアで成功する、教会や地域社会に貢献するといったことだ。残念ながら資源には限りがあるため、それぞれの事業は資源を得ようとして競い合う。つまり、わたしたちも企業とまったく同じ問題を抱えているのだ。
 自分が心から実行したいと思う戦略を、実際に実行しているかどうかを確かめるには、どうすればいいだろう?自分の資源が流れている場所に、つまり資源配分プロセスに目を配ろう。自分の立てた戦略を支えるような配分がなされていない場合、深刻な問題が起きるおそれがある。たとえば自分は慈善心のある人間だと自負している人は自分の気にかけている大義や組織に、それだけの時間やお金を費やしているだろうか?家族が何よりも大事だと言うなら、ここ一週間の時間の使い方の選択で、家族を最優先しているだろうか?自分の血と汗と涙をどこに投資するかという決定が、なりたい自分の姿を映し出していなければ、そのような自分になれるはずもない。

ex> イノベータのジレンマ(ソノサイトの例)

 ソノサイトでは2種類の医療用携帯機器を販売していた。
 1つは「タイタン」と呼ばれる、ラップトップコンピュータほどの大きさのもので、もう1つは「アイルック」と呼ばれる、タイタンよりも性能は劣るが、価格や大きさが小さく携帯性に優れたものだ。
 CEOはアイルックが長期的に莫大な利益な売り上げをもたらすと考え、営業マンにアイルックを売るように促していたのだが、彼らはそれを無視してタイタンを売り続けたのである。
 CEOは会社の長期的な利益のために戦略を立てていたのに対し、営業マンは歩合制で働いているために売りやすいタイタンをひたすら売り続けたのである。
 CEOは営業マンに明確な指示を吹き込んでいるつもりでいたが、実はもう片方の耳に報酬体系が正反対の支持を叫んでいたのだ。

第2部

第5講 時を刻み続ける時計

  基本的に言って、投資家は企業に投資する際、成長と利益という、二つの目標を持っている。
 「良い金、悪い金」の理論は、一言で言えば、ビデの研究を単純な言明に落としこんだものだ。
 「良い金」は、「成長は気長に、しかし利益は性急に」求めるものでなくてはいけない。つまり、間違った戦略を推進して多額の資金を無駄にしないよう、できるだけ早くできるだけ少ない資金で、実行可能な戦略を見つけることを、新興企業に要求するのだ。
 初期段階の企業に可能な限り「早く大きく」成長することを求める資本は、ほぼ例外なく企業を崖に突っこませる。これが起きると、大企業でもあっという間に資金を使い果たしてしまう。
 これが、利益より先に成長を求める資金を、「悪い金」と呼ぶ理由だ。
 だが、この理論の名前に、両方の資金が含まれるのはなぜだろう?それは、いったん実行可能な戦略が見つかれば、投資家は求めるものを変えなくてはならないからだ。「成長は性急に、利益は気長に」だ。ひとたび利益ある有効な戦略が見つかれば、今度はそのモデルを拡大展開できるかどうかが、成否を分けるカギになる。

 この理論が守られない最多の例は、新しい成長事業への投資を検討するときだ。
 既存事業に注力するあまり、新規事業の投資を先延ばしにする。
 そして、既存事業が頭打ちになったときに、新規事業を「早く大きく」成長するように発破をかける。
 当然成功するはずもなく、新規事業は前速力で崖に突っ込むのだ。
 人生でも同様に、子供が幼いうちは、子育てはそれほど大事ではないから仕事に専念し、子供が成長したら仕事のペースを落として家庭に力を入れる。
 しかし、その頃にはもうゲームは詰んでいるのだ。

第6講 そのミルクシェイクは何のために雇ったのか?

 成功している製品・サービスはすべて、明示的な形であれ、暗黙的な形であれ、片づけるべき用事をもとに構築されている。用事を片づけることが、購入を促す因果的作用なのだ。どんなに興味をそそる製品でも、顧客の頭のなかの片づけるべき用事と直感的に結びつかなければ、成功するのは難しい。重要な用事に合うように手を加え、ポジショニングし直さない限り、成功はおぼつかない。
 仕事でもプライベートでも、自分がどんな用事を片づけるために雇われているのかを理解すれば、計り知れないほど大きな見返りが得られる。

ex) 家具店でIKEAに追随する競合他社が表れない理由

 一般的な小売店は、製品の種類や、年齢や性別などの人口統計学的属性に基づいて商品配置がされている。
 しかし、IKEA「用事」を中心に構成されている。
 わたしたちは日々生活を送る中で、「用事」を「片づける」ために製品を買って、つまり「雇って」用事を行う。
 つまり、製品を購入する動機になるのは、「片づける用事があり、その製品によって助けになる」という思いだ。

ex2) そのミルクシェイクは何のために雇ったのか?

 ある企業がミルクシェイクの売上アップを図ろうとしていた。
 チョコレート成分を増やすのか、価格を下げるのか、具を増やすのか、しかしどれも効果がなく、途方に暮れていた。
 そこで、このような提案をした。「お客がこのレストランに来てミルクシェイクを『雇う』のは、生活にどんな『用事』ができたときでしょうね?」
 そして、徹底的にデータを収集したところ、半数が早朝に、車に乗って、一人で来店し、単品で購入していたことが分かった。
 その用事とは、「通勤を楽しむため」だったのだ。
 もう半数は、昼や夕方に子供連れの父親が、子供に買い与えて自分がいい親だと満足するために購入されていた。
 しかし、親は子供が時間をかけて飲むのに我慢できず、飲みかけのまま捨てられていた。
 この二つの対極的な用事があることを理解すれば、どのように改良すればいいのかはっきりわかる。
 朝の用事には、飲み干すのにもっと時間のかかる粘度の高いものや、フルーツを入れるなどの改良、午後の用事には、サイズを小さくしたり、早く飲み干せるように緩くしたりする改良などが考えられる。

ex3) 学校を雇う用事

 学校は子どもたちの学習意欲を高めるためにさまざまな改善を図っているが、ほとんど効果が上がっていない。
 なぜなら、学校は子どもが用事を片づけるために雇う手段であって、用事そのものではないからだ。
 子どもが日々片づけなくてはならない二つの基本的な用事とは、成功したいという達成感を得ることと、友人を作ることだ。
 そのため、用事という観点からみると、学校がこうした幼児をまったくうまく片づけていない場合が多いことがとてもよくわかる。

第7講 子どもたちをテセウスの船に乗せる

 わたしたちはだれしも、子どもに最良の機会を与えることの大切さを知っている。
 わたしたちはよかれと思って、子どもに人生を豊かにする経験をさせようと、さまざまなコーチや講師のもとに送り出す。
 だが子どもにこのような形で手を貸すことは、大きな代償を伴うことがある。
 端的に言うと、企業ができること、できないことを決定する要因、つまり能力は、「資源」「プロセス」「優先事項」の三つの分類のいづれかにあてはまる。
 三つの要因がどのように組み合わさるかを説明するために、先ほどのiPad用アプリを開発する子供を例にとろう。プログラミングをするためのコンピュータと、iPadのアプリをプログラミングする知識が、子どもの資源にあたる。子どもがこれらの資源を組み合わせて、まったく新しいものや、つくり方をはっきり教わっていないものを生み出したり、実践しながら学習したりする方法が、プロセスになる。そして貴重な自由時間を使ってアプリをつくろうとする意欲や、わざわざアプリをつくって解決を図ろうとするほど気にかけている問題、ユニークなものをつくるという発想、友人をあっと言わせたいという願望などが優先事項となって、アプリをつくるという決定を導く。
 端的に言えば資源は何かを行う手段、プロセスは方法、優先事項は動機にあたる。
 たとえよかれと思ってやっていることでも、親として果たすべき役割をアウトソーシングすればするほど、子どもが ― おそらく最も重要な能力である ― 価値観を養う手助けをする、貴重な機会を失うことになるのだ。

ex) DELLアウトソーシング

 DELLは1990年代に大きな成功を収めたが、その背後にはASUSの影響が大きくあった。
 DELLASUSに対して、マザーボードの製造から、PC全体の組み立て、コンピュータの設計にいたるまで、すべてをアウトソーシングした。
 それによって、見かけ上はDELLは利益率を上げ、ASUSは事業拡大を果たすという互いにプラスになっているように見えるが、最終的にDELLはPC製造に関するものをすべてASUSに預けてしまい、自社に何も残らなくなってしまったのだ。
 DELLは資源にこだわり、重要なプロセスを減らすことに集中するあまり、実は将来の競争力を自ら削いでいることに気づかなかったのだ。

ex2) サッカーママ

 親たちは子どもにサッカー、バスケ、野球、留学など、たくさんの経験をさせようとする。
 これら一つひとつは子どもが成長でき、資源を増やす素晴らしい機会である。
 しかし、子どもに山ほどの経験をさせることばかりに注力するあまり、子どもがプロセスを養う手助けをしたいという願いがかすんでしまうことがままある。
 子どもは数々の経験を通して、進んで取り組んでいるだろうか?それとも親に言われて仕方なくやっているだけだろうか?
 これこそが、子どもの頭とこころにある資源とプロセスを分ける重要な違いであり、またアウトソーシングの予期せぬ後遺症である。

 ギリシャ人が私たちに残した、興味深いパラドックスがある。
 著述家のプルタルコスが初めて書物に著したもんだいで、「テセウスの船」と呼ばれるものだ。
 アテナイ人は、ミノタウロスを退治したことで知られる伝説的なアテナイ王、テセウスに敬意を表して、彼の没後も彼の船をつねに公開できる状態に保ち、アテナイの港に停泊させておいた。
 彼の部品が朽ちるたびに新しい部品に取りかえ、これをくり返すうちに、とうとうすべての部品が置き換えられた。
 これがパラドックスだ。この船は、部品が一つ残らず置き換えられてもなお、テセウスの船なのだろうか?

第8講 経験の学校

 子どもに困難なことを行う方法を学ばせるのは、親として最も大切な仕事の一つだ。
 だがどうすれば子どもに正しい能力を与えられるのだろう?
 「正しい資質」の考え方は、成功と相関性のあるスキルを並べ立てるにすぎない。理論の特徴を説明する言葉で言えば、候補者が翼や羽を持っているかどうかを調べるのだ。
 マッコールの「経験の学校」のモデルは、候補者が実際に空を飛んだことがあるか、あるとすればどのような状況で飛んだのかを尋ねる。このモデルを使えば、候補者が今後対処する必要のある問題に、以前の任務で実際に取り組んだ経験があるかどうかを判断できる。
 マッコールのモデルはプロセス能力を測ろうとするものだ。
 子どもが成功するためにはどんな講座が必要になるかを考え、それに合った経験を分析して模倣リエンジニアリングするのだ。

ex) 著者の失敗

 著者がCPSテクノロジーズを経営していたとき、新しい副社長を採用する必要がある場面があった。
 業務を研究段階から生産段階に移行し、製造プロセスの規模を拡大するノウハウが社内になかったため、それができる人材が必要になっていた。
 三か月経って、候補者が2人に絞られた。A氏は、世界的に展開する数十億ドル規模の事業部門を、オペレーション担当上級副社長として統括する極めて有能な人物だった。B氏は、伝統的技術を用いたセラミック製品を作っていたのだが、費用のかさむ労働組合契約を破棄するために、工場を一時閉鎖した。そしてそこで使っていたプロセス設備のほぼすべてをテネシー州の田舎町に運び、三か月前に新しい工場を開設したところだった。彼は大卒ではなかった。
 最終的にA氏を選んだが、事業を適切に統括できずとうとう十八か月後には辞任を要請せざる負えなくなった。
 なぜこのようなことになったのだろう?
 A氏は大規模な事業を統括していたが、それは安定した事業だった。新しい事業を立ち上げ構築した経験は皆無だったのだ。
 履歴書を比べれば、A氏の圧勝だった。しかし、それだけで彼を適材と判断することはできない。2人の履歴書の過去に注目していたなら、B氏が圧勝していたはずだ。B氏は「研究所のプロセス技術を試験生産を経て本格生産に拡大する」というプロセスをきちんと学んでいたのだ。

ex2) 子供の宿題

 ある夕食に子どもが突然、明日までに提出しなければいけないレポートがあり、まだ手をつけていないと言い出す。
 多くの親は、夜中まで付き合って子どもが宿題を終わらせられるように手伝う。中には子どもの代わりに宿題をやる親もいるかもしれない。
 ここには色々な善意が働いている。良い成績をとれば、子どもは健全な自尊心を保てるだろう。私は子どものピンチを助けることができた、なんて頼もしい親なのだろう。
 しかしこの手助けは、「子どもにずるをさせる」という講座を与えてしまっているのだ。
 子どもは、次にまた大きな問題が起きたときには親が助けてくれる、自力で解決する必要がない、と考えてしまうだろう。
 子どもに厳しく接することも貴重な講座を受けさせるためだ。
 宿題をおろそかにするとどうなるのかを身をもって知ることによって、「自分の責任は自分でとる」という講座を受けられるのだ。

第9講 家庭内の見えざる手

 子どもが選択肢を正しく評価し、賢明な選択を行えるよう、優先事項を正しく設定してやる必要があるのだ。これを行うには、わたしたちが家庭で築く「文化」というツールを使うのが一番だ。
 文化とは、共通の目標に向かって力を合わせて取り組む方法である。その方法はきわめて頻繁に用いられ、きわめて高い成果を生むため、だれもそれ以外の方法で行おうとは思わなくなる。文化が形成されると、従業員は成功するために必要なことを、自律的に行うようになる。
 あなたが選んだ解決策が何であれ、うまくいくようなら、繰り返そう。そうすれば子どもは同じ問題であなたに助けを求めるたびに、なぎが起きるかを予測できる。こうして、けんかをするとどうなるかを学び始める。
 あなたがつねに一貫した態度をとれば、子どもは友人の家で遊んでいるときも、同じ行動をとるようになる。

ex) ピクサーの文化

 ピクサーは映画の制作プロセスからして、他者と違う。
 一般的な制作会社は、開発部がアイデアを考え、監督が映画を制作する。
 しかしピクサーは、監督が自らアイデアを考え、制作まで行う。そして、会社を上げてアイデアに磨きをかける。
 このプロセスによって、制作に携わっていない人からも忌憚のない意見が飛び交う。
 これは、「質の高い独創的な映画をつくる」という共通の目標、文化を持っているからこその行動なのだ。

第3部 罪人にならない

第10講 この一度だけ……

 「この一度だけ」の誘惑に屈すれば、行き着く先で必ず後悔する。わたしの学んだ教訓は、自分の主義を100%守るほうが、98%守るよりたやすいということだ。この一線、自分なりの道徳上の一線は、強力なものになる。けっして越えることのない一線だからだ。一度でも越えることを自分に許せば、次からは歯止めが利かなくなる。
 何を信条とするかを決め、それをつねに守ろう。

ex) ニック・リーソンの失敗

 1995年に13億ドルの損失によりイギリスのマーチャントバンク、ベアリングズを破綻に追い込んだリーソンの経緯はどのようなものだったのだろう。
 彼の最初の一歩小さなもので、ほとんど調べられることのなかった架空取引口座に損失を付け替えて隠蔽を図るものだったのだ。
 しかし、リーソンはこれを機にさらに深く足を踏み入れていった。
 損失を一気に取り戻そうとして賭けに出てその損失をさらに膨れ上がらせ、嘘の上塗りを重ね、文書を偽造し、監査人を欺き、さらに膨れ上がった損失を隠そうとして虚偽の説明を繰り返した。
 しかし、とうとう逮捕されてしまい、ベアリングズの破産宣告、従業員1200人の失職、そして禁固刑6年半の判決という結末で終わった。

終講

 企業の表明する目的が意味をもつためには、次の三つの部分をもっていなければならない。
 自画像、献身、尺度の三つの部分が、企業の目的を作る。
 世界をよい方向に変えようとする企業は、けっして目的を成り行き任せにしてはいけない。
 これに対して、あなたがその人物になるための手段、つまり人生に起きるさまざまな機会や挑戦は、本質的に創発的だ。

三つの目的

  • 自画像

     主要なリーダーや従業員が、企業がいま進みつつある道を最後まで行ったとき、こんな企業になっていてほしいと思い描くイメージ。
     従業員が、こんな企業になったのかと驚きをもって発見するイメージではない(自画像という言葉のポイント)。

  • 献身

     企業の目的が本来の役割を果たすために、自画像に対して、ほとんど信仰ともいえる深い献身を持たなくてはいけない。
     従業員は何を優先すべきかという問いを四六時中突き付けられ、その信念を最後までつき通す必要がある。

  • 尺度

     経営者や従業員が進捗を測るために用いる共通の尺度。
     すべての関係者がそれぞれの仕事を尺度と照らし合わせることで、企業全体が一貫した方向に進む。

ex) 著者の例

 著者の自画像、つまりなりたい自分の出発点は、家族とそこで学んだ信仰だった。そして、職業人でもあったので、チームの成功に貢献することに至上の喜びを感じていた。
 そのため、著者の自画像は以下のようなものになった。

  • 人がよりよい人生を送れるよう助けることに身を捧げる人間
  • 思いやりがあり、誠実、寛容で、献身的な夫、父親、友人
  • 神の存在を信じるだけでなく、髪を信じる人間

 著者の自画像、つまり目的に対して深く献身するために、大学時代に毎晩1時間を割いて自分自身を見つめる時間を毎日続けることで見出した。
 最後に尺度を理解することとしては、著者の献身が一人ひとり善を施した人間に対してどれだけの行いができたかというものさしで評価することと気づいた。

 じっくり時間をかけて人生の目的について考えれば、あとでふり返ったとき、それが人生で発見した一番大切なことだったと必ず思うはずだ。
 あなたが人生を評価するものさしは、何だろう?


感想

 まとめるのにめちゃくちゃ時間がかかって最後が少し雑になってしまいました。まとめ方にしても、本に沿って1章ずつとかではなく、ポイントごとにまとめる方がよかったかなとも思いつつこのまま最後まで進めてしまいました。
 本に対しての感想としては、「片づける用事」の理論や、「資源」「プロセス」「優先事項」の三つの分類など、日常にも導入しやすそうな考え方がいっぱいあったので、これから意識的に取り組んでみたいと思いました。
 ただ、著者の思考の根っこには親への愛や友人の大切さがあるのは伝わりましたが、それが唯一絶対の目指すところだと断定口調で語っていた点には少し賛同しかねました。現代はライフスタイルが多様になっているので、それ以外を優先した生きる目的があってもよいと思いました。

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